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福岡地方裁判所柳川支部 昭和51年(ワ)51号 判決 1977年11月02日

原告

成清千賀子

被告

高野光則

ほか一名

主文

一  被告高野光則は、原告に対し、金八八万八、八七七円及び内金七八万八、八七七円に対する昭和五〇年一月二一日から、内金一〇万円に対する昭和五一年一一月一四日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告高野光則に対するその余の請求及び原告の被告高野久人に対する請求は、いずれも、これを棄却する。

三  訴訟費用中、原告と被告高野久人との間に生じたものは原告の負担とし、原告と被告高野光則との間に生じたものはこれを五分し、その四を同被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

一  当事者の申立

1  請求の趣旨

(一)  被告らは各自原告に対し金一〇六万八、六八七円及び内金九一万八、六八七円に対する昭和五〇年一月二一日から、内金一五万円に対する昭和五一年一一月一四日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

(三)  仮執行の宣言

2  請求の趣旨に対する答弁

(一)  原告の請求はいずれもこれを棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

二  当事者の主張

1  請求原因

(一)  原告は次の交通事故により傷害を受けた。

(1) 発生時 昭和五〇年一月二一日午後五時五五分頃

(2) 発生地 筑後市津島六一四番地先路上

(3) 事故車 原動機付自転車(筑後市三ノ二六〇七号、以下「被告車」という)

(4) 運転者 被告高野光則

(5) 事故の態様

原告が自転車に乗り前記道路を南進中、被告光則が被告車により後方より追突したため、右道路右前方七メートルにとばされたものである。

(6) 原告が受けた傷害の内容

右事故により、原告は加療二一日間を要する顔面挫創左膝右足擦過傷、左肩打撲傷の傷害を受けた。

(二)  事故の原因

事故現場は幅員七メートルの見とおしのよい直線道路であり、被害者である原告は道路左端を進行していたにもかかわらず、後方から追突されたのであつて、その原因は被告光則の脇見運転による一方的な過失によるものである。

(三)  責任原因

被告車の所有者は被告光則であるが、同人は事故当時高校生であつて何ら資力も収入もなく、親権者である被告久人が被告車を購入して光則に与えたものであり、その維持管理費もまた被告久人が負担していたものであつて、被告久人は被告車の運行を支配していたものというべく、被告両名はいずれも被告車を自己のため運行の用に供していたものであつて、自動車損害賠償保障法三条本文による責任がある。

(四)  損害

(1) 治療費 一万二、二〇一円

(2) 付添費 五万七、〇〇〇円

(3) 付添人交通費 二万一、一九〇円

(4) 休業損害 四万九、四八六円

原告は、日本ゴム株式会社に勤務していたが、本件事故による受傷のため、左記損害を受けた。

<省略>

(5) 受傷による慰藉料

本件事故当時原告は妊娠中であつて、無事出産に至るまで原告の心配は大変なものであつた。この入院二一日間の慰藉料として金三〇万円が相当である。

(6) 後遺症による慰藉料 五〇万円

本件事故により原告は顔面挫創を負い、傷そのものは治癒したが、右額に長さ約二・五センチメートルの醜状が残る結果となつた。右後遺症による慰藉料として金五〇万円が相当である。

(7) 弁護士費用 一五万円

被告両名は、被告側の一方的な過失により本件事故を起しながら、事故当初の馬田医院の治療費を支払つたのみで、それ以後の話し合いに応じようとしないばかりか、原告に対し、被告側加入の保険会社、保険番号をも知らせようとしない。そのため、原告は今日に至るまで自賠責保険金の請求もできず、本件訴訟を提起せざるをえなかつたものであり、訴訟手続を原告代理人に委任し、その費用として金一五万円を支払つた。よつて、右弁護士費用を請求する。

(五)  よつて、原告は損害額合計一〇六万八、六八七円及び内金九一万八、六八七円に対する不法行為時である昭和五〇年一月二一日から、内金一五万円に対する本訴状送達の日の翌日である昭和五一年一一月一四日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  請求原因に対する被告光則の答弁及び主張

(一)  請求原因(一)、(二)、(三)は、全部認める。

(二)  同(四)はすべて争う。

(三)  被告光則は、本件の損害の賠償として、原告に対し左記物品を交付したから、その価額は原告の損害金額から控除さるべきである。

(1) 自転車(婦人用、ナシヨナル)一台 価額金四万五、〇〇〇円

(2) ハンドバツク一個 価額金六、〇〇〇円

3  請求原因に対する被告久人の答弁

(一)  請求原因(一)については、事故が被告光則と原告との間に発生したことは認めるが、その余の事実は知らない。

(二)  同(二)(事故の原因)は知らない。

(三)  同(三)(責任原因)については、被告車が被告光則の所有であること、同人が事故当時高校生であつたことは認めるが、その余の主張事実は否認する。

(四)  同(四)(損害)については、全部否認する。

4  被告久人の反論

被告光則は、高校生当時、土方人夫のアルバイトで得た金員を貯金し、その貯金をもつて小型の原動機付自転車を購入した。その際代金二万円が不足したので、光則の母訴外シモノが被告久人に秘して補足してやつた。

その後被告光則は、右原動機付自転車に幾何かの追い銭を加えて本件の被告車と買いかえた。その追い銭は、被告光則が新聞配達と新聞代集金のアルバイトによつて得た賃金をもつて月賦五、〇〇〇円ずつを支払い、返済した。

被告車は、被告光則が自ら購入し、保険加入手続も同被告が単独で同車販売店に依頼し、税金も被告光則の名において同人が納入し、もつぱら新聞配達、集金及び通学用として、同人のために運行の用に供し、これを管理支配していたものである。

被告久人は、足が不自由で、もつぱら農業に従事しているほか、自動車運転免許を有せず、自動車操縦の経験なく、被告車を自己のため運用の用に供し、またはその運行利益を享受した事実は全然ない。したがつて、被告久人は、本件事故につき自賠法三条の責任を負うべきいわれはない。

なお、被告久人は光則の親権者として、道義的に、原告の治療費として金一三万五、八四〇円を支払つた。さらに、被告久人は、原告側から慰藉料等計二〇〇万円余の請求を数回受けたが、そのたびに散々どなられるだけで、落ちついた話合いもできず、もの別れとなつたのである。

三  証拠〔略〕

理由

一  請求原因(一)の各事実は、原告と被告光則との間では争いがなく、被告久人はこれを争つているので判断するに、成立に争いのない甲第二、第三、第四号証、原告本人尋問の結果によつて成立の認められる甲第五号証及び原告本人尋問の結果によると、右請求原因事実が認められ、この認定を左右する証拠はない。

二  前掲甲第二、第三、第四号証によれば、請求原因(二)のうち被告光則が脇見運転をしていたとの点を除くその余の事実が認められ、右認定を左右する証拠はない。右各証拠によると、同被告は脇見運転していたのではなくて、対向車のライトで前方が全く見えなくなつたのに僅かに減速したのみで前方には自転車などはないと思つて進行を続けたために原告の自転車に追突したものであることが認められ、この認定を左右する証拠はない。

三  被告光則の責任原因についての原告主張事実は、同被告と原告との間では争いがなく、右事実によると同被告は、本件事故によつて原告が蒙つた損害を賠償すべき責任がある。

四  被告光則法定代理人高野シモノ及び被告高野久人各尋問の結果によれば、次の事実が認められる。すなわち、被告光則は高校二年生になつてから原動機付自転車の運転免許を取得し、同被告が土工人夫のアルバイトや高校一年時以降している新聞配達のアルバイトによつてたくわえた金銭で原動機付自転車を購入したこと、右の購入につき被告光則の金では二万円不足したが、被告久人は光則が車を買うことに反対していたところから、光則の母シモノが被告久人にかくれてシモノの金二万円を出してやつたこと、その後被告光則は右原動機付自転車を下取りに出して本件の車両(被告車)を購入したが、同被告はその購入(買いかえ)に当つても被告久人には全然相談しなかつたこと、右購入代金は右下取りの車両プラス五万円であつたが、右五万円は月々五、〇〇〇円宛一〇回払の方法で全額を被告光則が新聞の配達・集金のアルバイトによつて得た賃金から支払つたこと、被告車についての自賠責保険も被告光則が自己の名で加入し(責任保険契約の締結)、その手続も同被告が車両販売店にたのんでなし、その保険料も同被告が右アルバイトによつて得た賃金から支払つていたこと、被告車のガソリン代は少しシモノからもらつたほかは同被告が右同様アルバイトで得た自分の金で購入していたこと、被告光則は本件事故当時一七歳で大牟田市の高校に通学していて、被告車を右通学のためなどもつぱら自己の用途に使用し、被告家の農業の用には使用していなかつたこと、被告久人はおよそ車両運転の免許はもたず、したがつて車両を運転したことは全然ないこと、同被告は足が不自由であり家業もシモノが主柱となつて働いていること、以上の事実が認められ、右認定をくつがえすに足る証拠はない。そうすると、被告光則は当時高校生であつて被告久人の扶養を受け、久人と同居し、久人の監護を受けてはいたけれども、右認定事実のもとにおいては、被告久人は被告車の運行を支配していたものではないというべく、したがつて自賠法三条本文に定める運行供用者の地位にあるとはいえない。

よつて、被告久人には本件の損害賠償責任はないことになり原告の同被告に対する請求は理由がない。

五  損害

(一)  治療費

原告本人尋問の結果によつて成立の認められる甲第九号証の一、二によれば、久留米大学医学部附属病院における外来診療費は原告主張のとおり一万二、二〇一円であることが認められ、これを左右する証拠はない。

(二)  付添費

原告本人尋問の結果及びこれによつて成立の認められる甲第六号証によれば、原告は本件事故による前記負傷の治療のため二一日間入院し、そのうち昭和五〇年一月二一日から同年二月九日までは付添看護を必要とし、右期間付添つた訴外堤トメに対し五万七、〇〇〇円の付添費を支払つたことが認められ、反対の証拠はない。

(三)  付添人交通費

原告本人尋問の結果及びこれによつて成立の認められる甲第七、第八号証によれば、前記付添人が付添のため自宅から病院まで通(かよ)つた交通費として同付添人に対し二万一一九〇円を支払つたことが認められ、反対の証拠はない。

(四)  休業損害

原告本人尋問の結果及びこれによつて成立の認められる甲第一〇号証によると、原告は本件事故当時日本ゴム株式会社に勤務していて、昭和四九年一〇月ないし一二月の三ケ月間に二一万二、〇八三円の収入を得ていたところ、本件事故のため昭和五〇年一月二二日から二月一一日まで二一日間欠勤を余儀なくされ、その間全然収入がなかつたことが認められて反対の証拠はない。そこで、右三ケ月間の合計収入を三で除して一ケ月分の収入を計算し、その二一日分を計算すると次のとおりになる。

212,083×1/3×21/30=49,486

すなわち、右四万九、四八六円が休業損害である。

(五)  受傷による慰藉料

本件事故当時原告が妊娠中であつて、本件事故に遭つたため無事出産できるか原告が非常に心配したことは原告本人尋問の結果によつて認められ、入院期間が前記のとおり二一日間であることなどを考慮して、本件における受傷による慰藉料は金二〇万円が相当であるものと認める。

(六)  後遺症による慰藉料

前記のとおり、原告は本件事故により顔面挫創を負つたところ、原告本人尋問の結果によれば、右傷そのものは治癒したが、原告の右額に長さ約二・五センチメートルの傷痕がのこり醜状を呈していることが認められ、反対の証拠はない。右後遺症による慰藉料としては金五〇万円が相当であるものと認める。

(七)  原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、請求原因(四)の(7)の事実が認められるところ、本件事案の内容、認容額等を考慮して、被告に負担させるべき弁護士費用は一〇万円をもつて相当と認める。

(八)  そうすると、以上(一)の一万二、二〇一円、(二)の五万七、〇〇〇円、(三)の二万一、一九〇円、(四)の四万九、四八六円、(五)の二〇万円、(六)の五〇万円、(七)の一〇万円の合計額は、九三万九、八七七円となる。

六  損害の填補

被告光則が原告に対し価額四万五、〇〇〇円の自転車一台と価額六、〇〇〇円のハンドバツグ一個を交付したことは、被告光則法定代理人高野シモノ尋問の結果認められて反対の証拠はなく、右両物品が本件事故による損害の一部弁済としてなされたとの同被告の主張事実を、原告は明らかに争わないからこれを自白したものとみなし、右合計五万一、〇〇〇円を、前記五の(八)の九三万九、八七七円から差引くと、残額は八八万八、八七七円となる。

七  よつて、被告久人に対する請求を棄却し、被告光則に対する請求は右八八万八、八七七円及び内金七八万八、八七七円(弁護士費用を除く額)に対する昭和五〇年一月二一日から、内金一〇万円(弁護士費用)に対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五一年一一月一四日から各完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において認容しその余の部分は棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条本文、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 久保園忍)

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